「ワインを手軽に」
~ベンチャー企業SAKELAVOの取り組み~
新しいワインのあり方?!
目次
・はじめに
・株式会社SAKELAVO:自分好みのワインとの出会いをプロデュースする
・SAKELAVOが提供するサービスと基準づくり
・消費者にもダイレクトにアプローチ
・「基準のお酒」を造る
・現在の取り組みと課題
・SAKELAVOのビジネスとは?
・今後の展望
・終わりに
・コラム
[ 執筆者 荻野, 五藤, 品部, 藏, 中茎, 橋本]
・はじめに
みなさんは、ワインの味わいをチャート化してくれるアプリをご存知だろうか?
『SAKELAVO CAMERA』は、ワインの味を科学的に分析し、それを二次元の『味わいマップ』として提供してくれるアプリである。今回高梨ゼミは、そのアプリを開発した株式会社SAKELAVOの社長である坂下慧志郎氏にインタビューをし、アプリ・リリースやSAKELAVO独自のワインの開発のお話、今後の展望などをお聞きした。
・株式会社SAKELAVO:自分好みのワインとの出会いをプロデュースする
株式会社SAKELAVO(以下、SAKELAVO)は、ワインの味覚データ収集をしていたシニアソムリエの神谷豊明氏と、代表取締役である坂下慧志郎氏(以下、坂下氏)による共同企業である。「より多くの人が自分好みのワインと出会い、ワインを楽しんで欲しい」という思いから、収集したデータを活かしワインに「味の統一基準」を設けることで、消費者が自分好みのワインを見つける手助けとなるサービスを提供している。
・SAKELAVOが提供するサービスと基準づくり
SAKELAVOが手掛けるのは、『SAKELAVO RETAIL』というサービスを用いた、店舗による消費者へのワインの販売を手助けするビジネスである。『SAKELAVO RETAIL』とは、酒類販売を行う小売店向けに提供している、消費者がお酒の味わいを視覚的に理解できるサービスである。サービスの対象には、ワインの他に日本酒も含まれている。このサービスには、店舗取扱商品や『味わいマップ』を表示するタブレット端末を売り場に設置する方法と、売り場にQRコードを設置し顧客自身が自分のタブレット端末でそれを読み取り、店舗取扱商品や『味わいマップ』を表示する方法がある。先述した『味わいマップ』とは、SAKELAVO独自の基準を設定しお酒の「味わい」を位置づけ、分布図にしたものである。これにより、消費者が選んだ商品がその基準よりも甘いとかドライだとか、酸っぱいなどが一目瞭然でわかるのである。この『味わいマップ』だけでなく、商品の味わいを個別により詳しく、6つの項目から評価した『味わいチャート』も見ることができる。(下記図1)
本サービス導入にあたっては、基準のお酒を店舗に置くことが必要となる。それは、SAKELAVOが独自に開発したワインであり、この売り上げが、SAKELAVOの収益になる。一方、味わいマップのサービスは無償提供されており、小売店でのワインの売り上げ増や、消費者のワイン選びを支援している。また、商品改廃の際には、SAKELAVOが小売店の商品管理を行う卸商社から商品の更新データを受け取り、それをもとにタブレット端末内のデータや売り場に設置するQRコードを遠隔で更新する。小売店にとって、SAKELAVOのサービスや基準のお酒を導入することのメリットは3つある。1つ目が、基本的に『SAKELAVO RETAIL』のQRコードや端末を置いてもらえれば、消費者がスマホで読み取るだけで、小売店側のメンテナンスはほぼ不要となることである。2つ目が、商品の改廃時のSAKELAVOが小売店の商品リストをもとに遠隔でタブレット内のデータや店頭のQRコードを更新するため、小売側の負担がないこと、3つ目がWebアプリはDL不要という点から高齢者なども使いやすいことが挙げられる。
・消費者にもダイレクトにアプローチ
また、SAKELAVOは消費者向けに、『味わいマップ』を手元で見ることができる『SAKELAVO CAMERA』というアプリと『SAKELAVO RETAIL』のWebアプリ版を提供している。消費者はこのサービスを利用しワインを視覚的に検討することで、自分好みの味を見つけやすくなっている。
SAKELAVOは、SAKELAVOと同時期に開設された一般社団法人酒類総合情報センター(以下、LGIC)と業務提携をして味わいマップを作成している。まず、メーカーが商品サンプルをLGICに送付し、会員登録と商品情報の入力を行う。LGIC側では味覚認識装置や糖度検査などによって味を分析する。分析された味のデータが、SAKELAVOの『味わいマップ』・『味わいチャート』にプロットされる。味の分析を外部に委託した理由は、SAKELAVOという1企業で検査したデータでは広域性・信憑性に欠けてしまうためである。一般社団法人である酒類総合情報センターを通してデータベースを作ることの方が、よりサービスを普及させることができると判断したと坂下氏は語った。他組織(酒類総合情報センター)に分析を委託することのリスクは小さくないが、味を検査して数値化することへの理解や味データの価値を高めることのほうがより重要であり、そのためにリスクを許容することも必要であると述べていた。
・「基準のお酒」を造る
『基準の酒』シリーズの商品は、『味わいマップ』を利用する中で世界中の酒の中央値を基準にしようとして生まれたもので、『基準の赤ワイン』『基準の白ワイン』『基準の日本酒』の3種類が現在販売されている。(下記図2) 坂下氏から、この基準のワインの製作過程の苦労話を聞くことができた。メーカーに基準となる味の数値でワインを作って欲しいと頼んでみたが、データからワインを製作するという難しさから中々受けてくれる相手が見つからなかったという。しかし、南フランスのワイナリーが、SAKELAVOの基準のワインに興味を持ったことにより製作が実現することとなった。
・現在の取り組みと課題
さて、上述のようにSAKELAVOのサービスとワインが生み出された訳なのだが、導入前後で小売店側の売り上げにはどのような影響があったのだろうか?坂下氏の話では、導入された店舗では客単価が112%、棚売り上げが108%と導入前より上昇したという。この要因をSAKELAVOは、アプリによって消費者が自分の嗜好にあったワインを視覚的に捕らえることができるようになったこと、陳列も味の濃さや度数に基づいて変え、消費者が探しやすくなったことが、売り上げUPに繋がった、と分析している。つまり、SAKELAVOのサービスにより消費者のワインの購買基準を値段から味覚へ変化させたのである。
一方で、課題もある。それはワインの取り扱いデータ数で、無数に存在するワインのデータを読み取るには限界がある。2022年時点のデータ数は約7500本である。登録のされていないワインに関しては、消費者がメールで情報をアップすることができるようにするなど、消費者からの投稿も今後は活用していく予定とのこと。しかし、LGIC側が検査・登録するには、ワインや日本酒を醸造しているメーカーからの協力が必須である。お酒を検査するのにサンプル提出の難しい商品や、味わいの検査に時間とお金がかかる点などから、データ数を簡単に増やすことができないのである。企業間の情報の取り扱いには信用が重要であり、ベンチャー企業であるがゆえの知名度の低さがボトルネックになってしまう点も否定できない。
・SAKELAVOのビジネスとは?
アプリを運営していくには、やはり利益がないと運営することはできない。現在SAKELAVOを運営していく上での利益というのは、スーパーなどの小売店に基準のワインや基準の日本酒を卸し、その代金を頂くことで得られている。つまりSAKELAVOの関連サービスで『基準の酒』に続く収益の柱をつくることが、今後の事業拡大において重要になる。坂下氏によるとSAKELAVOサービスのターゲット層は20〜30代の社会人の、いわゆる、ワイン初心者である。社会人になって、自分でワインを買い始めた人やワインを飲み慣れていない人などだ。しかしSAKELAVOを導入する店舗は店舗ごとに導入目的がある。例えば、百貨店のワイン売り場では、ワインに詳しくないアルバイトでも接客をスムーズに展開するためのツールとして『SAKELAVO RETAIL』を導入した。SAKELAVOは酒類を取り扱う販売店にサービスを導入してもらっているが、他社との差別化のため同じサービスを取り入れたくないなどを理由に導入してもらえないケースもあるという。また、導入してもらうための交渉中に相手側の担当者が変更になり、サービスの導入に多くの時間を有してしまうこともある。
・今後の展望
今後の展望として、これまでにない「味の数値化」を軸に「顧客データ」と「ワインデータ」を組み合わせて新しいサービスを生み出すことを目指しているという。そのための第一歩として、『SAKELAVO CAMERA』アプリにログイン機能を付けることで、アプリとユーザーの紐付けを行っていく予定だ(2023年1月リリース予定)。現在のアプリ機能は商品バーコードを読み取る検索機能のみであるが、ログイン機能を付けることで利用者のお気に入り登録、商品の検索履歴などの顧客データの分析を行い、利用者一人ひとりに合わせた商品の提案、顧客ニーズを取り入れた新しいワインの開発などに役立てていく。さらに、ワインの取扱いデータ数を増やしていくため、レストランなどの飲食店への『SAKELAVO RETAIL』サービスの展開を進めていく。現在は、主に、スーパーマーケットや百貨店などの小売業を中心としたサービス展開にとどまっているが、新たに飲食店でのサービス導入が増えることで、小売業では取扱われていないワインデータの収集や基準のワインの普及を図り、それによって収益の増加に繋げていく。将来的にSAKELAVOは、集めたワインデータと顧客データを組み合わせることで、消費者のニーズを取り入れた自社でのオンラインショップ立ち上げなどのBtoC向けの展開を考えている。その他にも、SNSを活用したワインデータの共有やアプリの普及、ポテトチップスやコーヒーなどワイン以外の嗜好品の味データ分析など様々な取り組みも検討している。(下記図3)
・終わりに
SAKELAVOのアプリ開発の1番大きな目的は、ワイン初心者により手軽にワインを楽しんでほしいということにある。私たちは坂下氏の話の中で、『SAKELAVO CAMERA』アプリには消費者のために存在したいという思いがこもっていることを知った。このサービスがワインを楽しみたい多くの人々の出発点になることを期待したい。
また、SAKELAVOのアプリビジネスや基準のワイン開発はとても面白い。その中でもSAKELAVOの1番の強みは、「味」という今まであやふやに皆が持っていた主観的な表現を基準のワインとの比較で視覚化したことにあると考えている。味の視覚化という強みを持つ一方で、 SAKELAVOのサービスの普及はあまり進んでいないように見える。SAKELAVOの強みを最大限活かすためにも、SAKELAVOを多くの消費者や企業に認知されることが今後は重要になるのかもしれない。
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・参考文献
SAKELAVO HP https://sakelavo.jp/www/
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・コラム
企業が事業を進めていく上で、「縁」というものがとても大切になってくる。SAKELAVOのサービスが一つの企業に導入された経緯も「縁」だといえる。
SAKELAVOの代表取締役である坂下氏は、コロナで潰れそうになっていた地元のラーメン屋を救うため、さまざまな方の協力のもと200万円の資金を集めた。その後、ラーメン屋の店主の親族の方が小売店の代表をされていることがわかり、店主からの紹介を受けて導入に繋がった事例をお話いただいた。
このような「縁」は「ソーシャルキャピタル」と呼ばれており、企業はそれを資産として最大限に活用していくことが重要である。「たまたまご縁があって」という言葉は人間関係だけでなく、企業間においても言えるのかも知れない。