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3年生のインタビュー記事

生き残るためのデジタル化~老舗飲食店萬店の挑戦~
 

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目次

・飲食店のデジタル化とは

・老舗割烹“萬店”と金子氏の紹介

・デジタル化への取り組み

・金子氏が描く老舗割烹“萬店”の今後

・インタビューを終えて私達が感じたこと

・参考文献

・出典 

[執筆者:古川拓哉・嶋澤紗羅・和久井心乃・上野涼太・飯田温人

飲食店のデジタル化とは

今回インタビューを行うにあたってゼミではデジタル化について調べた。

 近年、様々な業界でデジタル化が注目されているが、飲食業界では端緒についたばかりであり、他の産業と比較してデジタル化の普及率が低い。栗原ら(2021)の調査によると、現在、飲食業界で行われている主な取り組みは、「外国人向けの情報発信」、「会計時IT ツール導入」、「販売管理などバックヤード業務のIT 化」である。特に、多くの店で導入が進んでいるのが「キャッシュレス決済」であり、「外国人従業員教育システム」や「社内外のデジタル情報発信」はいずれも実施率20%未満に留まっている。つまり、多くの店舗では決済時のIT 化しか進んでいないのが現状である。

しかし、その中でも、デジタル化に成功している飲食店もある。良い例として伊勢うどんの「ゑびや」がある。このお店もデジタル化やAI導入を進めた老舗である(1)。しかし、伊勢という観光地に店を構える時点で、一般的な飲食店とは違うだろう。では、我々が目にする一般的な小規模飲食店では、どのように対応しているのだろうか?

老舗割烹“萬店”と金子氏の紹介

このような考えのもと、私達は老舗飲食店を訪れ、実際に行っている取り組みやそれにかける思いについてのお話を伺った。萬店というお店は、創業以来136年、誠実奉仕の精神を守り、武蔵野の培われた野趣と情緒富味をいつまでも心にとめて鰻料理を提供している。萬店では、鰻の産地は九州産にこだわり、板前は、一分以内に1匹を捌ききるほどの技術を持つ。店は3階建てで高級感がある。2階には個室が用意されており、お祝い事や法事などで利用されることが多い。

利用の仕方によって、お花を飾ったり、お遺骨や写真を置くなど、お客様が過ごしやすい空間作りをおこなっている。今回お会いしたのは、次期社長(5代目)の金子氏である。金子氏は、城西大学を卒業後、一般企業に就職した後大学院に進み米国へ語学留学をした。その後、何社か中小企業や大企業を渡り歩き、2020年に萬店に次期社長として入社した。そして、金子氏は自社のアナログな現状と今後のうなぎ店の縮小の予想から、”このままでは生き残れない”という危機感を感じデジタル化を進めている。

 

デジタル化への取り組み

 萬店は、「効率化」と「Eコマース事業」という2つの軸からのデジタル化を行っている。

「効率化」においては、2つのプロセスをデジタル化した。一つ目が顧客情報のデジタル化であり、2つ目が電子決済の導入だ。

デジタル化を行うまで、顧客管理はすべてアナログだった。注文は紙に、予約情報はノートに、お客様の細かな情報はメモに記録しており、人によって書き方も異なっていた。まさに“属人化”されている状態だった。しかしこのやり方では、顧客情報の蓄積や共有がしにくく、特に常連客への対応を困難にする原因となっていた。なぜなら常連客は「この前と同じのお願い」のような簡略化した注文をすることが多く、蓄積された情報がなければもてなすのが難しいからだ。さらに、常連客は冠婚葬祭のタイミングで利用することも多く、その場合、来店の間隔が空くことが一層おもてなしを困難にしていた。

この問題を解決するため、金子さんは2020年11月に顧客情報や売り上げをExcelシートにまとめるよう変更した。しかし、エクセルでは税抜き税込表示に分けることができず会計ソフトにそのまま移すことができないという問題があった。そこで、2022年夏、情報の統合化を進めるためにkintoneを導入した。これにより、電話番号と注文情報を紐づけが可能となった。さらに、現在、電話がかかってきた際に電話主の注文履歴が端末PCに立ち上がる仕組みを構築しつつあり、完成に近づいている。こうしたデジタル化による顧客管理システムの構築を通して、従来はベテランしか対応できなかった常連客の対応が、ほかの従業員でもできるようになりつつある。

 続いてデジタル化したのは、決済面である。以前は、現金のみの取り扱いであったが、金子さんが複数のクレジット会社と手数料交渉を行い、2021年4月に導入を成功した。これによって店側は閉店後の会計作業の簡略化が可能になった。一方、顧客も冠婚葬祭のタイミングで大きい金額を事前に現金で用意する必要がなくなり、利便性が向上した。このようにクレジット決済の導入は店側と客側、双方にメリットのある取り組みである。

 このような業務の効率化を図る一方で、萬店では「EC事業」の開始の準備を進めている。これがデジタル化の2つ目の取り組みである。萬店では、中期目標として海外での販売を掲げており、その足がかりとして国内でのEC事業(ネット販売)を始めようとしている。そのために、鰻をweb上で販売するEC事業を通して、モノの流し方、流通の仕方に関するノウハウを蓄えようとしている。このEC事業には、前述した「効率化」が密接に関わっている。デジタル化によって既存業務の効率が向上し、結果、余剰の時間が生まれる。この時間をEC事業に充てることができるのである。

 これら2つの取り組みだけでも、事業に広がりができた。例えば、2021年以来行っている「うなぎの食べ放題」などのイベントでは、新規顧客の獲得を目指しているが、獲得した“うなぎ好き”の顧客情報をデジタル管理して、EC事業へと結びつけている。デジタル化していれば、新規顧客を逃すことなく迅速にサービス提案やフォローの連絡ができるようになり、老舗うなぎ店としてのブランドイメージの向上、認知拡大にもつながる。

金子氏が描く老舗割烹“萬店”の今後

金子さんは萬店の海外進出を計画している。金子さんは日本人の人口は30年後に現在の人口の半分になると同時に高齢化がさらに進むと捉えている。つまり、うなぎ店の市場そのものが縮小するのだ。上述のEC事業もこれに対応するものであるし、次の展開として5年以内に鰻重・缶詰を海外へと輸出するとしている。実際に海外進出を行い、”浦和の鰻”というブランドが世に知れ渡り業界の発展と発展による鰻職人の後継者が続々と誕生する世の中を目指している。

 

ンタビューを終えて私達が感じたこと

インタビュー前、ゼミでは老舗店舗におけるデジタル化は業務の効率化が目的だろうと思っていた。しかし今回萬店さんのお話を伺って、デジタル化導入は単に効率化をするだけでなく、海外進出に向けた一つの手段であることが分かった。デジタル化は単なる手段にすぎない。何のためのデジタル化なのか、目的意識を明確にすることが大事なのである。各店舗のおかれた状況や環境に応じて、よりよいITツールを試行錯誤しながら選びだし、店に合わせて作りこんでいく必要があると考える。実際に金子さんは、顧客管理のために Excel を導入した後も機能面に限界を感じ、 kintone を導入している。

これらを踏まえて、小規模の老舗店であっても、失敗を恐れず変化していくことが生き残るための秘訣だと考える。特に老舗飲食店では、提供するものは同じでも時代の変化に応じてサービスの提供方法を変え、顧客との関わりを密にしていくべきである。

今回のインタビューを通じて、デジタル化を通してお店を発展させたいという金子さんの熱い想いが伝わってきた。できることからチャレンジする。チャレンジしていけば、試行錯誤はあったとしても経験値は残る。次のチャンスに生かすことができる。デジタル化導入は簡単なことばかりではないが、これからも新たな挑戦を続けていってほしい。

参考文献

栗原剛・吉田幸三・山地秀幸・新藤宏聡(2021)「飲食施設におけるIT活用と生産制との関分析」 https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/e_rnote/e_rnote060/e_rnote060.pdf(2022年11月29日参照)

萬店 ホームページ www.mandana.jp (2022年11月29日参照)

出典

(1)横田宏幸(2021)日経クロステック「伊勢神宮で『デジタル』に頼む、老舗ゑびやの用意周到」 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01587/0

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