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「ランチタイムイノベーターの挑戦」 

.一学生目線で創る混雑解消のビジネスモデルー

〔 執筆者 : 高橋 将平 下山 依宙 小林 真彩 〕  

1.はじめに

 私たち3人で結成した「ランチタイムイノベーター」は、東洋大学白山キャンパス6号館地下一階にある食堂の混雑緩和を目標に、1年間活動を行ってきました。昼休みの時間帯に特に混雑が集中するこの食堂では、学生が席を確保できずに食事を諦めるケースや、長時間の待ち時間が発生するなど、多くの課題が存在しています。 このような状況を改善し、学生が1人でも快適にランチタイムを過ごせる環境を実現するために、私たちは食堂の利用状況や学生の行動特性を調査し、ビジコンを通して具体的な解決策を提案・実践することを目指しました。特に、食堂の店舗や大学の学生部との連携を通じて、混雑を分散させる新しい仕組みづくりに挑戦しました。

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2.ビジコンとは?

 まず、私たちが参加した産学連携ビジネスコンペティション、いわゆるビジコンとは、学生と社会人コーディネーターで構成された混成チームで活動するものです。学生と社会人の協働によってより良い社会を持続するために解決が求められる社会課題を設定してビジネスモデルを創出することが活動内容です。このビジコンでは、社会人の方が1名コーディネーターとして配置されるため、社会人が持っている情報や経験と私たち学生の思考力を合わせて、どのようなビジネスモデルが考えられるかが良さとなっています。アイデアの独創性や社会的意義などが評価されます。

今年は、「持続可能な社会を創ろう」がテーマとなっており、そのテーマに沿ったビジネスモデルを考えました。企業と連携をしたり普段関われない方達と関わったりと貴重な経験を得ることが出来ます。

3.ビジコン主催 AKKODiSコンサルティング株式会社、株式会社志結舎とご協力いただいた方の紹介

 

AKKODiSコンサルティング株式会社について

 AKKODiSコンサルティング株式会社は、モビリティ、通信、ソフトウェア開発、インフラ構築など、幅広い分野において技術とデジタルソリューションを提供する企業です。特に先端技術を活用した課題解決に強みを持ち、クライアントのイノベーションや持続可能な成長をサポートしています。

 私たちのプロジェクトでは、株式会社 AKKODiSコンサルティング様から大学専任コーディネーターである福田さんと、社会人メンバーの増渕さんがメンターとしてご支援くださいました。お二人は、食堂の混雑緩和に向けた私たちの取り組みにおいて、重要な役割を果たしてくださいました。福田さんは、大学内での調整役としてプロジェクトの全体進行をサポートし、的確なアドバイスを通じて、私たちのアイデアをより実現性の高い形に導いてくださいました。一方で、増渕さんは社会人としての豊富な経験に基づき、具体的なアプローチ方法や課題解決に向けた視点を提供してくださいました。特に、私たちの発案に対して熱意を持って指導いただき、プロジェクトの可能性を広げるための的確なアドバイスをくださいました。(画像真ん中:増渕さん 右:福田さん)

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 株式会社志結舎は、本来の⼈と社会をつくる
総合プロデューサーを企業理念に掲げ、日本人の持つ個性と力、誇るべき伝統や風土を活かし、人間本来の生き方を創造することをミッションとし、⼈材・組織戦略コンサルティングをはじめ、人材育成・組織開発プラットフォーム「N-SHIP」の運営も行っています。株式会社 志結舎の関口さんは、ビジネスコンペティションの運営を行いながら、私たちのチームを気にかけて下さり、相談に乗っていただきました。三人のご支援は、私たちが自信をもってプロジェクトを進めるための大きな支えでした。心より感謝申し上げます。福田さん、増渕さん、関口さん、本当にありがとうございました。

4.チーム発足

 東洋大学白山キャンパス6号館地下一階にある食堂の混雑を問題として捉え、この課題を特に重要視していたメンバーが集まり、チームを結成して当プロジェクトに取り組みました。チームの構成は、女性2人と男性1人。発足当初は、意見がぶつかり合うことが多く、方向性がなかなか定まりませんでした。また、お互いの考え方や価値観を十分に理解していなかったため、何を考えているのかわからないこともあり、意見の一致を見出すのに苦労しました。さらに、役割分担の明確化も進まず、プロジェクトが本当に1年間続けられるのか、不安を抱えていたのが正直なところでした。

5.アプリ開発に挑戦!? ~協力者得られず失敗...どうする?~

 当初、私たちは食堂の混雑を緩和するために、アプリや混雑緩和につながるシステムの開発を目標に掲げていました。しかし、メンバー全員がプログラミングやシステム開発の技術を持ち合わせていなかったため、東洋大学情報連携学部のゼミとの連携を通じてアプリ開発を目指そうと計画しました。

 まず、どのゼミがアプリ開発に精通しているかをリストアップし、議論を重ねながら候補を絞り込みました。また、協力を得るための企画書を作成し、直接売り込む方法も検討しました。しかし、情報連携学部のゼミに効果的にコンタクトを取る良い方法が見つからず、結果的に協力者を得ることができませんでした。このため、アプリやシステム開発を諦めざるを得ない状況に直面しました。

6.ビジネスコンペティション参加決定

 アプリ開発計画が頓挫し、プロジェクト活動の方向性に行き詰まっていた私たちに転機が訪れました。それは、指導教員である高梨先生からの提案でした。「食堂の混雑緩和」というテーマをそのままに、この課題を解決するビジネスモデルを提案し、ビジネスコンテストに挑戦してみてはどうか、というお話をいただいたのです。その提案を聞いたとき、私たちの正直な気持ちは複雑でした。ビジネスコンテストに参加することはハードルが高く、準備や検討すべきことが山積みになるだろうと考え、最初は気が進みませんでした。しかし一方で、達成できれば大きなやりがいを感じられるだけでなく、自分たちにとって一生忘れられない貴重な経験になるだろうとも感じていました。 その結果、私たちは高梨先生の提案を受け入れ、挑戦することを決意しました。

7.企業ヒアリング 

 食堂の混雑を緩和するためには、混雑状況を「可視化」することが必要だと考えた私たちは、混雑状況表示システムやカメラで人を検知し、リアルタイムで混雑状況を配する技術を持つ企業様にヒアリングを行いました。ヒアリングでは、食堂にカメラを設置して混雑状況をリアルタイムで配信する場合の具体的なコストや、企業の商品をスペックダウンした形で活用できる可能性などについて詳しくお伺いしました。しかし、ヒアリングを通じて明らかになったのは、これらのシステムを導入するには予算的にも時間的にも私たちのプロジェクト規模では実現が難しいという現実でした。また、企業のシステムをそのまま導入するという案は、ビジコンに出場する事を決定した時に掲げていた「自分たちで工夫し、混雑緩和の仕組みを創り上げる」という目標から大きく外れていることに気づきました。この結果、私たちは企業に頼る形ではなく、自分たちで低コストかつ短期間で実施可能な混雑緩和のためのビジネスモデルを考案し直す必要性を強く感じるようになりました。

8.アンケート・ヒアリング調査

 現状の食堂の状況を把握し、具体的な課題を特定するために、私たちは現地調査とアンケート調査、さらには関係者へのヒアリングを行いました。 

まず、現地調査では、ランチタイムに訪れる人数をカウントし、混雑のピーク時間や滞留の発生源を特定しました。また、列の乱れが生じる原因についても分析を行い、課題の具体化に努めました。さらに、学生に対してアンケート調査を実施し、食堂利用に関する不満や改善希望について意見を集めました。アンケートの回答を集める際には、SNSを活用して広く呼びかけるとともに、直接食堂に足を運び、食事中の学生一人ひとりに協力をお願いしました。この取り組みには多くの時間と労力を費やしましたが、粘り強い努力の結果、多くの学生から貴重な意見をいただくことができました。また、オリエンタルフーズ営業担当の若月様にヒアリングを行い、店舗が抱える課題や改善してほしい点、さらにはどのようなビジネスモデルが理想的かについて具体的なご意見を伺いました。同時に、東洋大学学生部にもヒアリングを行い、食堂を管轄する立場からの視点で、学生や店舗への思い、実現可能なビジネスモデルについて意見を収集しました。こうした調査やヒアリングを通じて、食堂の混雑に関する新たな課題や改善の可能性を見出すことができました。さらに、多くの学生、学生部、そして店舗の方々が快く協力してくださり、プロジェクトへの期待と関心を感じることができたのも大きな収穫でした。これらの調査結果は、ビジネスモデル構築における重要な土台となりました。

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(オリエンタルフーズ 若月さんとのヒアリングの様子)

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(東洋大学学生部 山下さんとのヒアリングの様子)

9.ビジネスモデル発案

 複数の調査とヒアリングを経て、食堂の混雑に関する具体的な問題点が明確になりました。これらの課題を踏まえ、私たちは「学生、店舗、大学の三者が得をする」という視点を常に念頭に置き、試行錯誤を重ねながらビジネスモデルの発案に取り組みました。 モデルの設計にあたっては、低コストで実現可能であり、関係者全員にメリットをもたらす仕組みを目指しました。また、学生や店舗、大学の声を反映させることで、実行性と現実性を高めることに注力しました。このプロセスでは、これまで得たアンケート結果やヒアリングの内容を活用し、実際の課題と解決策を一致させることを意識しました。 最終的に、混雑を分散させるためのクーポン制度【ぐるポン】を考案しました。このモデルは、学生が日々感じている課題を解決するだけでなく、店舗や大学にとっても運営向上や不満解消につながることを目指したものです。

10.ギリギリまで修正

 ここまで、調査やヒアリングを通じて得たデータをもとにビジネスモデルを発案し、形にしてきました。準備は順調に進み、発表できる形に近づいていると感じていました。しかし、完成に近づけば近づくほど、修正したい箇所や改善が必要な部分が次々と見えてきました。 内容を見直す中で、発表資料の構成やデザイン、説明の論理性、ビジネスモデルの現実性について再検討する場面が多くありました。「もっと具体的にデータを示すべきではないか」「この部分は簡潔にした方が伝わりやすいのではないか」といった議論を繰り返し、メンバー全員が細部にまでこだわり抜く作業を続けました。 修正作業はギリギリの時間まで続き、負担も大きくなりましたが、「少しでも良いものにしたい」という全員の思いが一致していたため、最後まで妥協せずに取り組むことができました。この過程は非常に厳しいものでしたが、同時に、プロジェクト全体の完成度をさらに高めるための重要な時間となりました。

11.いよいよ本番!ビジコン当日

 ビジネスコンペティション当日、私たちは朝早く集合し、発表直前まで内容の最終確認と発表練習を繰り返しました。本番では緊張しながらも、これまでの準備の成果をしっかりと発揮し、無事に発表を終えることができました。発表を終えた瞬間には、大きなやりがいを感じると同時に、ここまで取り組んできた努力が実を結んだという達成感を強く実感しました。

 他のチームの発表では、同じ大学生でも異なる視点やアプローチでビジコンに臨んでいることに驚かされました。テーマやビジネスモデルの規模感、課題解決の手法など、チームごとに多種多様で、それぞれの個性や強みが際立っていました。他チームの発表を通じて、私たち自身の提案を振り返り、足りている部分と逆に不足している部分を客観的に見つめ直す機会にもなりました。結果として、私たちは賞を受賞することはできませんでした。しかし、ビジコンを通じて得た学びや経験は、賞以上に価値のあるものでした。普通の授業や日常生活では得られないような貴重な気づきや成長を得られたことが、このビジネスコンペティションに参加した最大の収穫です。この経験を活かし、今後も挑戦し続けたいという思いを新たにしました。

12.さいごに 

 この一年間のプロジェクト活動を通じて、私たちは食堂の混雑という身近な課題に真剣に向き合い、試行錯誤を繰り返してきました。アプリ開発の頓挫や企業ヒアリングの失敗、ビジネスモデルの修正など、決して順風満帆な道のりではありませんでしたが、その度に新たな視点を得て、チームとして成長することができました。

 ビジネスコンペティションに参加することで、他チームの発表から多くの刺激を受け、自分たちの強みや課題を再確認する貴重な機会となりました。また、調査やヒアリングを通じて、多くの人々が私たちの取り組みに協力してくださったことに感謝の気持ちを強く感じています。 今回のプロジェクトでは、混雑緩和という課題に対する完璧な解決策を導き出すことはできなかったかもしれません。しかし、この経験を通じて得た学びや考え方は、今後の私たちにとって大きな財産となりました。

今後は、この経験をさらに活かし、どのような課題にも粘り強く取り組み、課題解決の可能性を追求し続けていきたいと考えています。この1年間、関わってくださったすべての方々に感謝を申し上げるとともに、今回のプロジェクトを糧に、より一層成長していきたいと思います。

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