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イノベーション共創プラットフォームの課題と展望
~ifLinkオープン・コミュニティの取り組み事例を踏まえて~

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記事製作者
飯田温人
藏慧子
中莖裕也

・はじめに
 もし、新しいアイデアや商品を思いついたとしたら、どのように世間に広めていくのか。そのアイデアは自分一人では完成することは容易ではないだろう。このような状況をifLinkで解決することができるかもしれない。
 ifLinkオープンコミュニティ(以下コミュニティ)は、「IoTの民主化」というビジョンを掲げ、様々なIoT機器やモジュールの組み合わせを、ユーザー自身が自由に組み合わせて簡単に実現できるIoTプラットフォームである。参加企業や団体は144社(2023年1月時点)で、会員同士がアイデアを出し合ったり、プロジェクトを立ち上げたりして協力している。
 コミュニティでは、どのようにアイデアを実現しようとしているのか。実現するまでのプロセスで問題になるのは、何であろうか。高梨ゼミでは、コミュニティのマネージャーである丸森宏樹さん、同アソシエイトの磯崎亜樹さんへインタビューを行い、設立からいままでの経緯、実際のプロジェクトのプロセスやコミュニティ運営に対する思いを聞いた。

・ifLinkオープンコミュニティを始めようと思ったきっかけ
 ifLinkは、IF-THENという「もし○○なら、△▽する」の組み合わせによってユーザーの困りごと解決や、叶えたいことを実現するためのプラットフォームである。コミュニティがこのifLinkで目指そうとしているのは、誰もが簡単に道具を使うような感覚でIoTが使える世界でありこれを「IoTの民主化」と呼んでいる。「IoTの民主化」を実現したいという思いがこのコミュニティの立ち上げに関わっている。コミュニティ自体は何かコンテンツを提供しているわけではない。コンテンツはユーザーが入れ込むものであり、丸森さん達はその枠組を作っているにすぎないと言う。コンテンツよりも、何か新しい事が起きる枠組みや場を提供するのが、コミュニティなのである。
 ifLinkは、IF-THENを組み合わせることができるプラットフォームという言い方をしているが、ここで共有されているのは、「考え方」である。コミュニティのメンバーがIF-THENを検討することで新鮮な発想を見出したり、IFやTHENをデバイスとして提供する他のユーザーと繋がることで、新サービス・新製品を生み出したりする。こういった取り組みは“オープンイノベーション”と呼ばれる。つまり、コミュニティは共創の場なのである。

・始めた前と後でのギャップ 
 2023年1月時点で参加企業や団体は144社近くにのぼる。事務局側では、創立から3年目を迎える中で、コミュニティが発展しているという実感はあるようだ。だが、コミュニティが「IoTの民主化」に向けて本当に動けているのかと問われると、まだ十分ではない。多様な人々が組織の垣根を超えて、新しい価値を創り続けることで「IoTの民主化」に繋がると丸森さんは思っている。加えて、発足して改めて認識したことがあるという。それは異なる考えをもつ企業同士を、どのようにして調整し、多くの人が納得いくような仕組みを作り出すか、という事である。何に価値を置き、何を考え優先すべきか等、イノベーションに対する考え方は各企業によって異なる。このことを想定してなかったわけではないが、難しさを改めて感じた3年間だったと磯崎さんは振り返っていた。

・仲間の集め方
 コミュニティはこれまで「IoTの民主化」を常に発信し続けてきた。そしてこのビジョンに共感してくれた人が、一人また一人とコミュニティのメンバーになった。
 IoTという言葉は最近よく耳にするが、我々はIoTを十分には活用できていない。お互いの企業が強みを生かしIoTを用いてコラボレーションをすることで、新サービス・新しい価値観の誕生や、新たな市場の発見につながる可能性をまだまだ秘めている。その可能性への期待と追求がIoTを世の中に普及させていく。「このコミュニティで一緒に取り組みませんか?」と声をかけたら、そこに共感してくれる人が集まり、新たな出会いがコミュニティを活性化する。そういう姿を事務局では描いている。
 では、それを実現するにはどうしたよいだろうか。丸森さんは、まず、「ビジョンの下でしっかりと活動している」ことを示すことが重要だと考えている。2020年3月に設立されはや3年、結果が出なければ抜ける人も出てくる。新しいことに挑戦し続け、それが成長に繋がっていること、つまり「結果」とそれにつながるプロセスを見せ続けることで、一緒に取り組んでくれる新しい仲間を増やそうと心がけてきた。今では会員各々が自身のコミュニティでの経験を他のところで発信し、新しい仲間集めをするまでになった。これはこの数年で見られた大きな変化である。

・事例1:キャンプペグとIoT
 今回、事例として紹介するのが、キャンプペグだ。これは、キャンプ用品×IoTとして株式会社PUZZLCE(以下、パズルス)が考案したものである。
 パズルスは、キャンプ用品のモノづくりを行っているスタートアップ企業である。代表取締役社長である小池さんは、キャンプ用品×IoTという今までにない商品を作ると面白いのではないかと考え、商品開発に取り組もうと考えた。しかし、キャンプ用品を作る知識や経験、スキルはあるものの、肝心のIoTに関するそれがなかった。さらにそのIoTを自社で開発しようとすると、多額の費用が掛かってしまい、スタートアップ企業ではなかなか捻出することは困難であった。そこで小池さんは、コミュニティを頼ることにしたのだ。
 ところが、入会するとすぐに大きな壁にぶつかる。それはプロジェクトの趣旨に賛同する人を集める「仲間集め」である。仲間を集めるためには、人のつながり、会員同士での接点が重要となるが、メンバーが自ら接点を作ることもまた、大変なことであった。そこで、パズルスをサポートするために、事務局は、パズルスのプロジェクトのビジョンや何を目的としているのかなどを理解し、全会員にむけて発信することにした。加えて、思いを聞いてくれる場を作り、他のメンバーとの接点を作ろうとしたのである。この活動以外にも、事務局では、普段から様々な会員とのコミュニケーションを取り、何か困ったときに気軽に事務局に話したいという雰囲気を作ることを大事にしている。
 コミュニティには、もう1つの課題が存在する。それは、会員が持ち込むのは「義務のないプロジェクト」であるということだ。通常、企業間で協力して何かを作るときは、契約が生じる。そうすると、そこに責任が生まれ、契約内容を守らなければならない。しかし、コミュニティでは、契約を結ばずに共創活動を進める事も多い。それは一見良いことのように思うが、そうではない部分もある。確かに、責任が生じることになれば、簡単にタイアップをすることは難しくなり、プロジェクト自体がなかなか起こらない。その点、コミュニティはプロジェクトが起こりやすいといえる。しかし、責任が生じなければ、プロジェクトは予定通りに進みにくくなる。その一つの理由として、メンバーは本業を抱えながら、プロジェクトに関わることになるからである。そこで、このキャンプペグのプロジェクトでは、極力タイムリーに目指すゴールに向かって進められるように、プロジェクト進捗定例会議を行っている。この会議の目的は、プロジェクトに関わるメンバー全員で認識合わせをして、各担当者の進捗確認をすることである。そうすることで、遅れなどが生じた場合でも、メンバーで課題を共有し解決していくことができる。
 今回のキャンプペグの事例は、現在進行形のプロジェクトであり、これからも様々な課題が生じることになるだろう。その各場面で、事務局はメンバーに寄り添い、課題一つ一つと向き合って解決に向かって伴奏していくことだろう。

・事例2:教育とIoTのコラボレーション 
 ifLinkは教育の分野でも活用されている。
 丸森さんはifLinkと教育の親和性が高いと感じ、教育業界に取り入れたいと考えていた。そういった中、Edutex株式会社(以下、Edutex)の入会により、構想が一気に躍進した。今回のコラボが実現した背景としては、コミュニケーションロボットKebbiを活用した教育ビジネスを創りたいEdutexと、ifLinkを活用した教育を普及させたいコミュニティの想いがマッチングしたことにある。
 本プロジェクトを進めるにあたり、会員に協力を求めたことは2つあった。まず、ifLinkを使った教育カリキュラムの設計である。ifLinkを使ったアイデア発想のワークショップの進め方や、アイデアをifLinkでカタチにする部分など、普段のコミュニティ活動で実践していることを誰でもできるようにするための構成作りである。次に、設計した内容を実際に行う為の講師やファシリテーターの支援である。この2つを事務局と会員が一緒になりながら作り上げている段階だという。
 丸森さんは、ビジネスとして成立させるためには「誰もが実行しやすいものにしていく」必要があると考えている。つまり自立的に回っていくシステムづくりである。毎回、毎回、事務局や会員から人員を派遣するのは不可能である。自立化が進めば、その必要がなくなり、容易に全国展開できるようになる。

・ifLinkと教育の親和性
 丸森さんはifLinkの良いところとして、アイデア出しでは終わらないという点を挙げていた。ifLinkならば、アイデアを出したその先にプロトタイプを作る段階までを一気通貫して行うことが可能である。こうした教育ができるのは、まさにifLinkの強みであるという。
 実際にifLinkの体験授業に参加した生徒の反応は「楽しい、面白い」に加えて、「アイデアを形にできることが面白い」「アイデアを形にすることでいい点や改善点を見つけることができる」という意見も多いようだ。
 また、丸森さんはifLinkを通して「デザイン思考」を学べることも重要なポイントであると話していた。デザイン思考とはユーザー視点から本質的な課題点やニーズを検討してビジネスの課題を解決するための思考法だ。一般にアイデア出しで終わってしまうワークショップが多いなか、ifLinkはその先のプロトタイピングという段階まで踏まえているところが、デザイン思考の教育に適していると考えている。
 この教育IoTの事例も、キャンプペグと同じく現在進行形であるため、これからたくさんの困難に直面することになると予想できる。今後の動きに注目していきたい。

・これからの展開:目指している会員数
 事務局は多くの企業・団体が参加すればするほどコミュニティの活動が活性化し、そこに加わりたい仲間も指数関数的に増えてくると考えている。日本から世界へ、IoTプラットフォームifLinkによるイノベーション創出の想いがコミュニティには強く存在している。

・終わりに
 今回のコミュニティへのインタビューを通して、ifLinkはイノベーション創出のプラットフォームであり、コミュニィはユーザー同士がアイデアを創出しあい新たな価値を生み出す共創の場であるということが分かった。アイデアの数が多くなればイノベーションは誕生しやすい。その点で、コミュニティは答えを見つける場というよりは、手段をみつけ活用していく場であると感じた。誰もが簡単にアイデアを出したり、IoTをみんなで作ったりすることが共創である。ifLinkは共創を通した「IoTの民主化」への手段の一つだと考えられる。
また、それぞれの強みを生かしつつ弱みを補うところはまさにオープンイノベーションの特徴を生かした事例であると感じた。ifLinkは誰でもゲーム感覚でできるという親しみやすさ、わかりやすさがコミュニティにて枠を超えて普及していくうえで非常に強みになると考える。
 一方で課題もある。コミュニティ活動は、「義務のないプロジェクト」である。そこで、縛られることなく、気軽にアイデアを出せるというメリットの一方で、縛りが存在しないがためにプロジェクトの進行に遅れが出てしまうというデメリットが存在する。問題はデメリットをどう解決するかになってくる。単純に業務として共創を作ればよいが、そうすると今度はメリットである気軽にアイデアを出して、乗っかるということができなくなる可能性が大いにあるだろう。メリットを残しつつ、デメリットを克服する方法を考えることが今後の課題であると考える。

参考にした資料
ifLink公式ホームページ https://iflink.jp/(参照日:2022年12月)
yearbook2021 https://iflink.jp/assets/pdf/yearbook/yearbook2021_all.pdf(参照日:2022年12月)

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